大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和32年(ネ)682号 判決

第五四四号控訴人 蔡明裕

第六八二号控訴人 協同組合中国経済合作社

第五四四号・第六八二号 被控訴人 秀吉魁

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人等の負担とする。

事実

控訴人等(第五四四号及び第六八二号を含む。以下同じ)訴訟代理人は「原判決中控訴人等に関する部分を取消す。被控訴人の控訴人等に対する各請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人(前同両事件を含む)訴訟代理人は「本件各控訴を棄却する。」との判決を求めた。

当事者双方代理人の事実上の陳述は、被控訴人訴訟代理人において、原判決三枚目表四行目ないし五行目、同四枚目表二行目、同四枚目裏七行目に各「一万五千円」と記載あるのは「金一万五百円」の誤記であるから、訂正する。と述べ、控訴人等訴訟代理人において、右訂正に異議はない。本件昭和二十九年二月四日附控訴人蔡宛翌五日到達の書面による延滞賃料の催告並びに停止条件附契約解除の意思表示において、延滞賃料の支払期間を三日と定めているが、右書面到達の翌六日は土曜日、その翌七日は日曜日に当つていたから、金二十五万円余に及ぶ金員の支払催告期間としては不相当であつて、この点において右解除の意思表示は無効である。なお昭和二十七年二月分以降同三十年三月分までの賃料は既に供託済である。と述べた外は、原判決事実摘示と同一であるから、これをここに引用する。

証拠として、被控訴人訴訟代理人は、甲第一号証の一、二を提出し、原審証人須永喜久治の証言(第二回)並びに原審における被控訴人本人尋問の結果を援用し、乙第十号証の成立につき不知を以て答え、その余の乙号各証の成立を認め、控訴人等訴訟代理人は、乙第一、第二号証、第三号証の一、二、第四ないし第十号証を提出し、原審証人須永嘉久吉(第一回)、原審及び当審証人渡辺栄一の各証言並びに原審及び当審における控訴人蔡明裕本人尋問の結果を援用し、甲第一号証の一、二の成立を認めた。

理由

当裁判所は、当審における証拠調の結果を斟酌するも、左記の点を附加する外、原判決がその理由中に説示する事実の認定並びに法律上の判断(ただし本件控訴人両名以外の者に関する部分を除く)をすべてここに引用し、これと同一理由によつて、控訴人両名に対する被控訴人の本訴請求は、いずれも正当としてこれを認容すべきものと判断する。当審証人渡辺栄一の証言及び当審における控訴人蔡明裕本人尋問の結果中、前示引用の原判決の認定に反する部分は採用し難い。

附加する点は左記のとおりである。

一、控訴人等は、被控訴人の書面による本件催告並びに条件附解除の意思表示が控訴人蔡に到達した昭和二十九年二月五日の翌六日は土曜日、更にその翌七日は日曜日に該当していたので、右催告につき定めた三日の期間は催告金額に比し著しく不相当であつて、この点において契約解除の効力はない旨主張し、右に指摘する日がそれぞれ土曜日及び日曜日に該当することは暦に照らし明らかであるが、催告期間の最終日である八日は通常の取引日であるし、右催告にかかる昭和二十七年二月分以降昭和二十九年一月分までの本件賃料計二十五万二千円を控訴人蔡において支払わなかつた経緯について、原判決の認定した諸般の事実を斟酌するときは、右催告につき定めた三日の期間は必ずしも不相当であるとは謂えず、従つて本件賃貸借は、右催告期間満了の日である昭和二十九年二月八日の徒過と共に解除せられたという原判決の判断は、正当である。

二、成立に争いのない乙第八号証、及び同第二号証(いずれも供託書)によれば、控訴人蔡は(イ)昭和二十七年二月分から昭和二十九年一月分までの延滞賃料金二十五万二千円を昭和三十年九月三十日に、(ロ)昭和二十九年二月分の賃料金一万五百円を昭和二十九年二月二十六日に、それぞれ供託した事実を認めることができる。しかし右各供託は、いずれも本件契約解除後のことに属するから、その適否如何に拘らず契約解除の効力には何等の消長を及ぼすものでないこと勿論であるが、ただ被控訴人が控訴人蔡に対し訴求する昭和二十七年二月一日から昭和二十九年二月八日の契約解除に至るまで一ケ月金一万五百円の割合による延滞賃料債権の債務消滅の事由となるかは、別に論ずべきである。しかし右各供託に先だち債務者たる控訴人蔡において、債権者たる被控訴人に対しこれが履行の提供をしたが、受領を拒絶せられたという事跡の徴すべきものなく、本件賃料債務は持参債務と解すべきこと、前示引用の原判決の説示するとおりであり、右各供託に先だち控訴人蔡において被控訴人にこれが弁済の提供をなすも受領を拒絶せらるべきこと明確であつたという特別の事情を窺うに足る資料のない本件にあつては、(右供託の日時が賃貸借契約が解除された後であるという一事だけでは右特別の事情というに足りない)前示各供託は債権者の受領拒絶という供託適法の要件を欠く無効のものであつて、これによつては控訴人蔡は前示延滞賃料債務を免れ得ないといわねばならない。

また成立に争いのない乙第三号証の一、二、第四ないし第六号証(いずれも供託書)によれば、控訴人蔡において、昭和二十九年三月分以降昭和三十年三月分まで一力月金一万五百円の割合による金額を供託済であることを、認めることができるけれども、右各供託はいずれも本件賃貸借契約の存続を前提とする各その月分の賃料として供託したものであること、右乙号各証によつて明らかであるから、右供託によつて契約解除後における右期間の賃料相当の損害金債務を免れしめるものではないし、前顕乙第二号証によつて認め得る昭和二十九年二月分の賃料の供託により、契約解除の翌日である同年二月九日以降同月末までの賃料相当の損害金債務を免れしめるものでないことについても、また同様である。

これを要するに前顕乙号各証によつて認め得る供託の事実は、控訴人蔡の被控訴人に対する本訴延滞賃料並びに賃料相当の損害金債務の適法な消滅事由とはならないものである。

よつて結局以上と同趣旨に出でた原判決中の本件各控訴人等に関する部分は相当であるから、民事訴訟法第三百八十四条に則り、本件各控訴を棄却すべく、控訴費用につき同法第九十五条、第八十九条第九十三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 斎藤直一 坂本謁夫 小沢文雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例